ソーシャルジェットラグとは?平日と休日の睡眠リズムのズレが心に及ぼす影響

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    金曜の夜はつい夜更かしをして、土日は昼近くまで寝てしまう。そして月曜の朝、体が重くて頭がぼんやりする。旅行もしていないのに、まるで時差ボケのような感覚に襲われた経験はないでしょうか。実はこれ、「ソーシャルジェットラグ」と呼ばれる状態かもしれません。近年、この平日と休日の睡眠リズムのズレが、私たちの心の健康と関わっている可能性が指摘されるようになってきました。この記事では、ソーシャルジェットラグの正体と原因、そして日本の働く人を対象にした研究からわかってきたリスク、さらに日常でできる対策を、専門用語をできるだけ使わずにわかりやすく整理します。

    ソーシャルジェットラグとは何か

    体内時計と社会生活のズレ

    私たちの体には、およそ一日の周期で眠気や目覚めを調整する体内時計が備わっています。本来ならこの体内時計が「眠りたい」と感じる時間に眠り、「目覚めたい」と感じる時間に起きるのが自然なリズムです。ところが、仕事や学校の始まる時間は決まっているため、多くの人は平日、体が求めるよりも早い時間に起きなければなりません。この体内時計が刻む生物学的な時間と、仕事や社会生活が求める時間との間に生まれるズレが、ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)です。自分ではふつうに生活しているつもりでも、体の中では時間の食い違いが起きているのです。

    「時差ボケ」との共通点と違い

    海外旅行で時差のある地域へ移動すると、現地の時間と体内時計がずれて、眠気やだるさ、頭のぼんやりといった不調が起こります。これがいわゆる時差ボケです。ソーシャルジェットラグは、飛行機に乗って移動しなくても、平日と休日で寝起きの時間が変わることで、体の中に同じような時間のズレが生まれる現象です。名前に「ジェットラグ(時差ボケ)」とついているのは、この共通点があるためです。旅行による時差ボケが一時的なものであるのに対し、ソーシャルジェットラグは毎週のように繰り返される点が大きな違いといえます。慢性的に続くからこそ、体への負担も見過ごせません。休み明けに感じる重さやだるさは、単なる気のせいではなく、体内時計と生活時間のズレから来ている場合があるのです。

    どのくらいの人に起きているのか

    ソーシャルジェットラグは、特別な人だけに起こるものではありません。今回紹介する日本の研究では、平日と休日の睡眠リズムのズレを調べたところ、ズレが1時間未満の人が約64パーセント、1時間以上2時間未満の人が約28パーセント、2時間以上の人が約8パーセントという分布でした。つまり、3人に1人以上が1時間以上のズレを抱えている計算になります。これまでの研究でも、夜勤や交代勤務ではない働く人の多くに社会的時差ぼけがみられると報告されており、決してめずらしい状態ではないことがわかります。ふだん健康に働いている人でも、平日と休日の生活のちがいがある限り、誰にでも起こりうる身近な現象だといえます。

    ソーシャルジェットラグが起こる原因

    平日の睡眠不足と週末の寝だめ

    ソーシャルジェットラグの背景には、平日の睡眠不足があります。平日は仕事や家事に追われ、寝る時間が遅くなりがちです。それでも決まった時間に起きなければならないため、睡眠時間が足りなくなります。その不足を補おうとして、休日に遅くまで寝てしまう。この「週末の寝だめ」によって、平日と休日で寝起きの時間帯が大きくずれ、リズムの乱れが生まれます。眠りが足りない状態が続けば、休日に長く眠りたくなるのは自然な反応です。しかし、それがかえって平日との差を広げ、ズレを大きくしてしまうという難しさがあります。平日の睡眠不足と休日の寝だめは、いわば表と裏の関係にあり、一方だけを直そうとしてもうまくいきにくいのです。だからこそ、まずは平日に眠りを削りすぎないことが、ズレを小さく保つ土台になります。

    仕事や生活スケジュールとのズレ

    働く人の多くは、自分の体が心地よいと感じるリズムよりも、勤務時間に合わせて生活せざるを得ません。始業時間が早ければ、体がまだ眠りを求めていても起きる必要があります。今回の研究で対象となったのは、夜勤や交代勤務ではない働く人たちです。一見すると規則的な生活を送っていそうな人たちですが、それでも決められたスケジュールに体を合わせ続けることで、慢性的にリズムのズレを抱えやすいことが指摘されています。生活を自分の体のリズムに合わせるのが難しいという点は、多くの働く人に共通する事情だといえます。だからこそ、個人の心がけだけでなく、働き方そのものを見直す視点もあわせて必要になります。

    体内時計のタイプとの関係

    体内時計のリズムには個人差があり、朝早くから元気に活動できる人もいれば、夜になると調子が出てくる人もいます。夜型の傾向が強い人ほど、早い始業時間との間にズレが生じやすく、平日に無理をして起きている分、休日に遅くまで眠ることでズレが広がりやすくなります。自分がどちらのタイプに近いかを知っておくことは、リズムの乱れと向き合ううえでの手がかりになります。夜型だからいけないということではなく、自分の傾向を踏まえて生活の工夫を考えることが大切です。

    ソーシャルジェットラグが心と体にもたらすリスク

    うつ症状との関連を示した日本の研究

    ソーシャルジェットラグと心の健康の関係を調べたのが、日本の製造業で働く人たちを対象にした「古河栄養健康研究」です。この研究では、夜勤や交代勤務ではない18歳から78歳までの1,404人を対象に、平日と休日の睡眠リズムのズレと、気分の落ち込みなどのうつ症状との関連を調べました。その結果、対象となった人のうち約3割にうつ症状がみられ、睡眠リズムのズレが大きい人ほど、うつ症状を抱えている割合が高い傾向が確認されました。年齢や性別、睡眠時間、食事や運動といったさまざまな要因を考えに入れたうえでも、この傾向はみられています。つまり、単に睡眠時間が短いからうつ症状が多いというわけではなく、平日と休日の「リズムのズレ」そのものが関係している可能性がうかがえる結果でした。

    ズレが大きいほど高まる可能性

    この研究で特に注目されたのは、平日と休日の睡眠リズムのズレが2時間以上ある人たちです。ズレが1時間未満の人と比べると、2時間以上ずれている人は、うつ症状を抱えている可能性が高いという関連が示されました。さらに、ズレが1時間大きくなるごとに、うつ症状を抱えている可能性が少しずつ高まっていく形もみられています。ズレが小さい段階でははっきりした関連が確認されず、ズレが大きくなるほど結びつきが強まる傾向があるため、日々のわずかなズレよりも、平日と休日で寝起きが大きく食い違う生活に注意が必要だといえそうです。

    研究からわかる注意点と限界

    ただし、この結果の受け止め方には注意が必要です。この研究は、ある一時点でリズムのズレとうつ症状を同時に調べたもので、「ソーシャルジェットラグがうつを引き起こす」と結論づけられるものではありません。むしろ、気分が落ち込んでいる人が睡眠のリズムを乱しやすく、その結果ズレが大きくなっている可能性も考えられます。また、統計的にはっきりした関連がみられたのは2時間以上ずれている人たちで、それ未満のズレについては確実なことはいえません。研究チームも、はっきりした因果関係を確かめるには、同じ人を長い期間追いかける調査が必要だと述べています。今わかっているのは、あくまで「睡眠リズムの乱れとうつ症状には関連がみられた」ということです。

    なぜ睡眠リズムのズレが心と関わるのか

    働く人が抱えやすい慢性的なズレ

    この研究がこれまでの研究と違うのは、夜勤や交代勤務ではない働く人に注目した点です。これまで社会的時差ぼけとうつ症状の関係を調べた研究は欧米が中心で、しかも交代勤務ではない人を対象にしたものはほとんどありませんでした。決まった時間に働き続ける人は、一見すると規則的に見えても、体のリズムと勤務時間のズレを何年にもわたって抱え続けることになります。今回の研究は、そうしたアジアの働く人にも同じような関連がみられることを示した点に意味があります。勤務時間に合わせて生活せざるを得ない立場の人ほど、自分ではコントロールしにくい慢性的なズレを抱えやすいという視点は、働き方や職場の健康づくりを考えるうえでも参考になります。

    体のリズムが乱れることの影響

    なぜ睡眠リズムのズレが心の状態と関わるのか、その正確な仕組みはまだわかっていません。研究チームは、体内時計が乱れることで、気分の安定に関わる体の働きや、一日のなかで変化するホルモンの分泌リズムに影響が及ぶ可能性を挙げています。ただし、これはあくまで考えられる説明のひとつであり、確かめられたものではありません。仕組みそのものはまだ研究の途中ですが、睡眠リズムの乱れと心の状態に関連がみられること自体は、複数の要因を考えに入れても確認されています。はっきりした仕組みが解明されるのを待つまでもなく、まずは睡眠リズムをできるだけ整えておくことが、無理のない備えになるといえるでしょう。

    ソーシャルジェットラグを小さくするための対策

    起きる・寝る時刻の規則性を保つ

    研究から見えてきたのは、平日と休日で寝起きの時間をなるべくそろえ、リズムの規則性を保つことが、働く人の心の健康にとって望ましい可能性があるという点です。特に、休日に大きく寝坊して平日との差が2時間以上になる生活パターンには気をつけたいところです。まずは休日に起きる時間を、平日から大きくずらしすぎないことを意識するだけでも、ズレを小さく保つ助けになります。毎日きっちり同じ時間でなくても、大きく外れない範囲にとどめることを目標にすると続けやすいでしょう。完璧を目指すより、まずは平日と休日の起きる時間の差を今より縮めることを意識してみてください。

    週末の寝だめとの付き合い方

    とはいえ、平日にたまった睡眠不足を休日に少しでも取り戻したい気持ちは自然なものです。大切なのは、寝だめを完全にやめることではなく、ズレを大きくしすぎないことです。一般的には、休日に眠る場合でも起きる時間を平日と大きく変えず、その分、前の晩に早めに就寝して睡眠時間を確保する方法が知られています。休日の朝に一度起きて日光を浴びてから、必要に応じて短い昼寝で補うといった工夫も、リズムを大きく崩さずに休息をとる方法として挙げられます。睡眠不足そのものを平日にためこまない工夫も、あわせて考えたいところです。寝る前にテレビやスマートフォンの画面を見る時間を少し減らし、就寝時刻が遅くなりすぎないようにするだけでも、平日の睡眠を守る助けになります。

    日中の眠気やだるさへの向き合い方

    睡眠リズムが乱れると、日中に強い眠気やだるさを感じやすくなることが一般に知られています。もし平日の日中にぼんやりする時間が増えていると感じたら、それは睡眠が足りていない、あるいはリズムが乱れているサインかもしれません。眠気を我慢して無理を重ねるより、生活リズムそのものを見直すきっかけと捉えることが大切です。まずは自分の平日と休日の寝起きの時間を書き出し、どのくらいのズレがあるかを知ることから始めてみてください。ズレの大きさに気づくことが、無理のない改善への第一歩になります。もし強い眠気やだるさが長く続き、気分の落ち込みも重なるようであれば、生活の見直しだけで抱えこまず、早めに専門家へ相談することも選択肢のひとつです。

    ソーシャルジェットラグは、旅行をしなくても日常のなかで起こる身近な時差ボケです。日本の働く人を対象にした研究では、平日と休日の睡眠リズムのズレが大きい人ほど、うつ症状との関連がみられました。因果関係が確定したわけではありませんが、寝起きの時間をなるべくそろえ、リズムを整えることは、心と体の健康を守るうえで意識しておきたい習慣です。まずは自分の睡眠リズムを見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

    参考文献
    1) Islam Z, Akter S, Kochi T, et al. Social jetlag is associated with an increased likelihood of having depressive symptoms among the Japanese working population: the Furukawa Nutrition and Health Study. SLEEP. 2020;43(1):zsz204.